Special
日大三をもっと知る
先輩こんにちは!
石名坂 豪さん
1992年卒業
vol.05
公益財団法人 知床財団
主任研究員
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- 1973年
- 東京都小平市生まれ
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- 1989年
- 日本大学第三中学校 卒業
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- 1992年
- 日本大学第三高等学校 卒業
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- 1998年
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日本大学農獣医学部 獣医学科 卒業
獣医師免許取得
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- 2002年
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北海道大学大学院獣医学研究科 博士課程 修了
博士(獣医学) 学位取得
NPO法人の研究員、専門学校の非常勤講師、日本大学生物資源科学部助手、環境省臨時職員を経て、2008年より公益財団法人 知床財団でヒグマ・エゾシカなどの大型哺乳類を中心とした野生動物管理対策に従事する石名坂豪さんを年頭講演会にお迎えしました。
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- 聞き手
- 常務理事 髙瀨 英久
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- 聞き手
- 副校長 松本 秀人
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- 司会
- 広報部 主任 佐々木 祐輔
本日は、貴重なお話をいただきありがとうございました。知床の野生動物を守るために、日夜奮闘されているご様子がよくわかりました。また、野生動物対策が、実は人間対策にほかならないというお話に大変感銘を受けました。
知的好奇心を育てる恵まれた環境
まず、日大三中に入学したきっかけについて教えてください。
- 石名坂
- 私立中学をいくつか受ける中で本校に合格し、自然に囲まれた環境に魅力を感じて入学を決めました。
- 松本
- 以前から自然や動物に興味があったのですか?
- 石名坂
- 小学校時代からカブトムシやクワガタ採り、川釣りなどをよくしていて生き物が好きな子どもでしたね。中学に入ってから生物部に入部しました。生物部に入部したばかりの頃は、顧問の柴田(泰利)先生と今の第二体育館付近で昆虫の調査をして、日大三の里山の自然を楽しんでいました。柴田先生が、部員のみんなが自由に研究できる環境を作ってくださったことで、虫に限らず、川魚、野鳥など興味の幅が広がりました。特に、秩父や北八ヶ岳、三宅島など様々な場所に行かせていただいた夏休みの合宿は、今でも思い出に残っています。
- 髙瀨
- 自分自身で気づいて、調べて解決していく過程はとても大切ですね。この恵まれた環境の中で、今後ももっと自然を生かした教育活動をしていきたいものです。在学当時と比べて、現在の学校を見てどのように感じましたか?
- 石名坂
- 私は中高六年間男子クラスにいたので、女子学生が増えて良かったのではないかと思います(笑)。また、大人になってからのほうが、グラウンドを含めた設備や周囲の自然環境など、都心部の学校に比べて非常に恵まれた環境であると強く感じられました。あと、モノレールができて、とても便利になってうらやましいです(笑)。
農獣医学部(現在の生物資源科学部)へ進学を決めたのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
- 石名坂
- 私は高校当時、「野生動物の多い北海道の田舎で、なるべく安定した生活を送りたい」という夢を抱いていました。野生動物に関わる仕事をしてみたいという思いはあったものの、調べていくうちに、それでお給料をもらって生計を立てることはとても難しいということが分かりました。そんな頃、中高時代に愛読していた雑誌に、キタキツネを調査して写真集や本を出した、本業が乳牛の獣医師という人がよく登場していたんです。「そうか、獣医になれば北海道で安定した職業に就けて、手に職もつく。その上休日には野生動物にも関われる!」と考え、私は獣医を目指すことにしました。
世界自然遺産の知床で野生動物や人間と向き合う
目標であった獣医師の免許を取得し、さらに北海道に移住して高校時代の夢を叶えられたわけですが、現在携わっている仕事についてお聞かせください。
住宅地に侵入してきた親子グマ & ヒグマが食品工場に侵入した跡
- 石名坂
- 2008年から、北海道の北東端に位置する知床半島にある公益財団法人 知床財団に勤務しています。知床財団は、知床世界自然遺産や知床国立公園の現場の管理・運営を担っている団体です。私は獣医師や狩猟免許の資格を活かして主に野生動物の調査研究や鳥獣対策業務を担当しています。
- 松本
- 具体的にどのような業務を行っているのでしょうか?
住宅地を右往左往する若いヒグマ
- 石名坂
- 近年、ある意味保護の成果で、ヒグマが人間を怖がらなくなり、ヒグマと人間との間に本来あるべき境界線や適度な距離が失われつつあります。このような状況になると、ヒグマが人間の生活圏に出没し、生活環境被害、農業被害、漁業被害など様々な問題が起こります。時には人間にも危害を加え、結果として、本来は罪のないヒグマの命を奪うことになるのは、とても残念なことです。春~秋は、適度な距離感を維持し様々な被害を未然に防ぐために、ヒグマの追い払いや市街地を囲む電気柵の管理、ヒグマ出没現場の調査、遺伝子解析用試料収集、捕殺個体の解剖・試料採取などを行っています。冬~春は、バランスの崩れた生態系の回復のため、環境省や林野庁など国の機関からの請負業務として、増えすぎたエゾシカの捕獲を主に実施しています。その他にもライフワーク的なトドの調査や、知床科学委員会関連の会議への参加、資料・報告書の作成業務などを行っています。野生動物保護の現場で、彼らの命に最後まで責任を持つことを信念として、日々大型野生動物と向き合う仕事をしていますが、結局は、人間側の問題に直面することや、軽い気分で野生動物に近づく人たちを注意するような、人間相手の仕事も多いですね。
- 髙瀨
- 自然を相手にする仕事、というよりは自然と人間をつなぐ仕事なのですね。
野生動物だけでなく、人間とも向き合う日々の仕事の中で得た教訓はありますか?
生態系の維持・回復のため、増えすぎたエゾシカを捕獲(間引き)
- 石名坂
- 私が、この仕事を通して得た教訓は、大事な情報を収集したり分析したりするときには、一つの情報源を鵜呑みにせず、色々なところから情報を集めるべきということです。知床という目立つ地域で野生動物を専門にしていると、新聞、雑誌、TV局などのマスコミから取材を受けることが頻繁にあります。しかし、出来上がった記事や放送を見ると、「そんなことは言っていない」というケースがたくさんあります。最近はテレビや新聞以外にもSNSなど様々な情報源がありますが、本当に必要な情報についてはまず疑ってみて、多角的に情報を集めた方が、真実に近づくことができると思います。
ドローンを使用したトドの調査(ロシア人の付けた標識を確認)
学生時代の基礎が将来の仕事に活きる
最後に、在校生へメッセージをお願いします。
年頭講演会当日の様子
- 石名坂
- 中学、高校の六年間の時期に経験したことは、その後の人生の様々な場面で活きてくるものだと、私自身実感しています。また、仕事をする中で当時の学びがリンクすることが多々あります。特に国語や英語、基礎体力は非常に重要だと思います。私の給料の半分以上は、国から請け負っている仕事から出ています。国や自治体からの請負業務は、ただ調査や作業をして終わりではありません。どこでどんな方法で行い、どのような結果が得られたかを、すべて報告書というきちんとした文書で期限内に提出しなければお金をもらえません。また、外国人観光客に声をかけたり、海外の文献やホームページから情報収集をする際には英語が必須です。また調査結果の分析には統計学が必要で、今でも高校数学から復習し直すことがあります。皆さんが将来どんな仕事に就いたとしても、今学んでいる基礎はとても大切です。役に立たないと思わず、どんな勉強も頑張ってください。そして、これまでの人生で私が冒険してこられたのは、獣医師免許を持っていたからこそだと思います。色々な資格を皆さんも将来取っておくことをお勧めします。人生で冒険するためには保険も必要なので、ちょっと人と違った人生を歩みたいと考える人にはぜひ、資格を取る勉強もしていただければと思います。
大変興味深い貴重なお話を伺うことができました。本日は、どうもありがとうございました。